穴/城之崎二手次郎
 
 小学三年生の僕は、あの日塀の陰からそれを見ていた。近所に人通りのない裏道があり、そこのマンホールの穴に見知らぬおじさんが糸を垂らしていた。時おり引き上げては何かを取り外しているようだが、僕がいたところからはその背中しか見えない。おじさんが立ち去ったあとで、家から持ってきた糸を同じように垂らした。とたんに引きがきた。ドキドキした。慎重に引き上げる。穴から出てきたのは、全長3センチの河童だった。

あとがき。
二〇〇字物語第三十二弾。
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