52歳の小鳥/結城 森士
 
乗って一人、また一人と
未来へ旅立っていったの
あたしは一人部屋の隅にうずくまって
過去に自分を愛した男達の記憶を
アイロン掛けしていた
一枚、一枚、丁寧に
何処までも鮮烈に
何処までも暖かく
何処までも執拗に
気が付くとあたしの口から、ぽとりと
ため息が一つ
ねぇ、なぜ…
誰もあたしを幸せにしてくれなかったのかしら

ある日見慣れない美しい鳥がやってきて
窓の外からあたしにこう囁いたの
「こんなところで一体何をしているんだ」
あたしは、何ヶ月ぶりかにベランダの外に出たの
見慣れぬ美しい鳥はあたしの手をとって囁いたわ
「一緒に飛ぼうぜ」
あたしは4階のベランダから空へ飛びたったの
あたし生きているわけではない
けれどあたし死んだわけでもない
ねぇ…
人生なんて馬鹿みたいね

あたし、きっと
まだ口元から大きな涙を垂らし続けているわ
それともきっと
美しい鳥になってどこかで笑い続けているのね
戻る   Point(2)