龍との生活/角田寿星
 
いく決心をした

上高地や安達太良山がいいか と訊ねると
龍はゆっくりと首を横に振った
仲間はどこにいるのか との質問にも首を横に振った
ぼくは知った
人が龍を想わなくなって龍の個体数は減少の一途を辿ったのだと
そして彼こそが日本最後の龍なのだと

ぼくは龍を信じよう
龍と暮らした この二週間を胸に抱いて生きよう

ぼくは龍と卓を囲んで最後のお粥を食べて
お気に入りの この街でいちばん見晴しのよい丘で
龍とさよならをした
龍は人間式のさよならをぼくに返して よたよたと
灰色がかった青空の彼方に消えていった
龍の通り過ぎた後には虹が架かるのだと
この時 初めて知った

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