彼方へ/宇宿一成
 
どの経を択ぶも花野
そう呟いて少女が
コスモスの群れに混じる
大げさに手をふる姿に見覚えがある
一八歳の唇の硬さも
一輪を手折って
握りしめた形のまま風になって
彼方から押し寄せてくる

あなたが迎えたいと願った三十歳を
既にぼくは思い出にもち
嫌だねと笑っていた草野球の
みっともないユニフォームにまみれている

ポップ・フライを追って
太った遊撃手が後退する
ハーフ・ウエイから
帰塁しようと振り返ると
視線の届くグランドの隅の
ニセアカシアの根もとに
痩せた猫がよこたわっている

秋の風は花びらの形になって
彼方へ
幽かな呼気を運んでゆく
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