ささやき/佐野権太
 
拡散する意識のなかで
三月の
浅すぎる海底に揺れている

季節は傾きながらも
横滑ることなく
白い軌跡を轢いてゆく

街路樹の切り口に
ひたり、しみ込む優しさ
僕はきっと
臆病なのだ

何ひとつ変わることのない
円い波形
ちいさな

君はいまごろ
小花柄のワンピースを胸にたたんで
窓を見てる

雫の静かに身を潜め
またひとつ
ひっそりとなくなってしまう
予感をこらえている





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