柔らかい雨/松本 卓也
 
柔らかい雨が降っていた
右手を空にかざして
雲の向こう側から届くだろう
君の言葉を待っていた

冷たすぎることもなく
温かいはずなんてない
冷静に考えてみれば
いつもと同じ雨だけど

遠く君の指先から
生み出された言の葉が
空に跳ね風に乗り
雲を掻き分け雨を伝い

右手に掴んだちっぽけな機械が
微かに震えるのを待っている

答えを出したかったわけでも
慰めや同情なんかでもない
ただ少しだけ背中を押したかった

柔らかい雨が降っていた
咲きかけの桜は雫に震え
轍を跳ねる飛沫を避けながら
休日出勤に赴く途上
かざした右手が微かに揺れた

「今日はとても良い天気
 風がまだ冷たいけどね」

遠く君の笑顔が
見えたような気がした
柔らかい雨が降っているけど
今日はとても良い日だよ

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