さくら さよら さら さら/たちばなまこと
 
花を撫でる手は
あ、わんわん。
反対向きの鳩に向かって駆けてゆく
ベンチで本を読もうとした
老紳士が席を移ると
見えないけれどあの木の枝に
ほーぅほけきょ と鳴く

きみが詩ったクリームのくちばしは
みんな大きく口を開けて
青空からのえさを待っている
ほら、白もくれん。
大きな、お花。
きみのおもかげは黙ったまま
足もとの花びらを 一枚拾う
花びらにはどれにも
さよならと書いてあって
さよなら さよならと 降りかかる
きみのおもかげは
クリームの花びらをかじって
小さな歯形が “な“ を欠いて
さよら さよら さら さらと

また さよならの序章
ほら、さくら。
きみのおもかげは くるりと振り返り
誰かが放ったパンをつつく 鳩とむくどりを
あ、わんわん。 って…
ひとりになった母は さくら さくらと唄う
明日の雨上がりには
ほぅ… とためいきをつきながら
一輪 百輪 千輪と
物語が開く
さくら さくら
さよら さよら
さら さら
花びらにはどれにも
さよならと書いてある


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