春の約束/ましろ
て
けれど
春はやってきて
花見だ 花見だ と
衣替えすら始めぬうちに世間は騒ぎ出す
汗がじっとりと滲んで
たまらず私はニット帽を脱ぐ
あれは子供の頃
家族で行った桜山
「はいチーズ」で
おにぎり海苔の緑の舌を突き出した
飛んできた父の拳固
大好きな母の俵型のおにぎりは
いつもよりしょっぱい
まだ 私は飛べない
ピンクの花びらを
これでもかと美しく揺らし散らす桜とは
一緒には飛べない
けれど
私は野原にいるから
土筆や蝶やタンポポに つい気をよくして
あなたとの約束を思い出し
いつの間にか
フレアースカートなんかをひらひらさせて
まぶしい花畑を少女のように駆け出すだろう
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