浅春、深呼吸/たりぽん(大理 奔)
 
浅い春だから
吐く息はわずかに白く
見上げてため息をつけば
ひとり六分の月
面影というにはまぶしすぎて
思い出というには遠すぎて

  もう歌わないと決めたうたをつい口ずさむ
  もう呼ばないと決めた名前をブレスにして

芽生える季節が来る
忘れかけていた花壇に
花だって咲くだろう
もう咲かないと誓った花も
つぼみをもたげて

大きな弦楽器の弾く音が
驟雨のまえの遠雷
押し流すはずの激しさが
失いかけたものを潤し
なにものにも聞こえない声で
その名前を告げてまわる

僕は見上げるだろう
境目のないものを
遠くても近くてもそこにいる
ただ、それだけのことを
あたりまえのように確かめるために




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