雪江さん/いとう
 

そこにはトロトロの水たまりができていた

耳の奥がチリチリと
とても熱い
水たまりを掻き集めて
「もう少しだから。もう少しで帰れるから」
雪江さんは融けてしまってもまだ
「許してくれるかなぁ」とつぶやいている
僕は泣きながら旅館に駆け込んで
雪江さんでトロトロになった服のまま駆け込んで
そして当然のごとく追い出されてしまったけれど
彼女の魂はそこにある
彼女の魂は帰ることができた
たぶん許してもらっている
そうじゃないと
そう思わないと
彼女が浮かばれないじゃないか


泣きながら雪江さんの家に帰ると
死体がなくなったと大騒ぎになっていた
みんなで
出棺をどうしようかと
話し合っていた







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