砂憶/木立 悟
 


葉の雨 音の雨 風の雨
低く蒼い夜の連なり
月にいちばん近い星
吸い込まれるようにかがやいている



ついさっきまではっきりしていた
よろこびをふちどる線たちが
おぼろげにゆらめき にじんでゆく



触れずとも伝わるその記憶は
ただ目の奥に落ちてくる
ひとつの灯と
ひとつの窓しか持たずに
歩きつづけるもののなかに
たださらさらと揺れている



道はひとつだけ延びてゆくのに
風は交差を緩めない
かたちは飛び かたちは戻り
片目から片目へと行き来する



触れずとも伝わるその記憶は
歩きつづけるものの奥に
小さな傷とともに波打っている





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