ブロイラーのヒトに〜諫早湾に寄せて/草野大悟
おそらくは
永遠に分からないであろうヒトという類型を
きわめて短いスパンに押し込め
性急に、効率よく
育て上げようとしているものは
何だ。
ひとつひとつの殻の中に
ひとつひとつの無限を孕む
この類型を
ここまで都合良く飼い慣らし
己の繁栄のみを考え
己の声さえ聴けなくしたのは
誰だ。
三十八億年前
ぼくらの原型が
灼熱の海から生まれ
そのとき記憶された設計図とともに
つい、十五万年前
ヒトの♀と♂との核が
あの夢見る大地で生まれ
よろよろと
二本の足で歩くことを始めたというのに。
ヒトよ
思い出せ、
不便の有意を。
思い出せ
便利の無為を。
あした、
ヒトの言葉を持たない
ぼくらの先達を
一瞬のうちに死滅させる理不尽を
平然と行おうとしているヒトよ。
そう、
あの浄化作用を
鋼板で消し去ろうとしている
ゲージの中の
ブロイラーの君だ。
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