拾い続けるひと/恋月 ぴの
 
誰かの哀しみを拾い上げる
冷たい小糠雨に濡れ
誰かの哀しみは
つぶらな瞳でわたしを見上げたように思えて
この胸に優しく抱きかかえた

歩道橋下の暗がりで拾い上げた
誰かの哀しみは
手の温もりが恋しかったくせして
わたしの差し出した手を払いのけようとする
そんないじらしさに心打たれ

今日も
そして明日も
わたしは誰かの哀しみを拾い続ける

頼まれた訳でも無く
命令されている訳でも無く

幸せになろうとしてなれなかった
誰かの哀しみは
流した涙の分だけ軽くなってしまったように思えて
桜の木の下に埋めてあげた

誰かの哀しみは
やがて春になると薄桃色の花びらとなって
ふわりふわりと宙を舞い

忘れ去られた想いのひとつかみ
これが人生なんだと風に舞う



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