そら似(ver.2)/阿川守基
季節の坂をのぼる
胸には美しく包装した
空き箱を抱き
歩幅のぶんだけ
地平はさがり
わずかに高まる
あなたの心音を想い
わたしは勾配の不安に
つまさきで触れる
春色はとうに
人にやってしまったから
花のかたちにおおわれた
道をくだる
軽やかに
脱ぎ捨てたというのか
モニターの素子の海に
白い横顔をいくつもの枝の
影がよぎり揺れる
ああ
春に逝ったボーカリストよ
ゆるやかな螺旋の内側で
交わろうとする架空線を
滑り落ちる歩幅よ
このすれ違う時間の先端で
裏返るひとひらの春
あなたがあなたであることも
わたしがわたしであることも
微風にすら耐えない
揮発する輪郭であったなら
わずかな歩幅のずれから
永久に遠ざかってゆく
世界があったなら
ああ
春に逝ったボーカリストよ
人影のなくなった坂道に
開け放たれたラジオから
あなたの曲が聴こえ
花びらより先にポストから
紅く色づきはじめ
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