あの日を暮らせば/猫のひたい撫でるたま子
相変わらずわたしは荷物が多い
どこかからどこかへ、なにか必要なものを、過去になった場所から現在生きている場所へと運んでいる
大変に邪魔な荷物と夕暮れすぎの中央線。
昔々にオーダーした小説が封書で届いたので揺られながら読んだ。
なにも起こらない、私のための小説、
というオーダーにぴたり沿うような
なにもない一日を裏切られたような
女の子が書いたみたいな
主人公は私のようで私じゃなくて、遠く離れた私のようで
繰り返し読みたいから読み切りたくない、
あたしの大切な枕小説になった
捨てる訳にいかない紙切れがまたひとつ増えた
嬉しいような
哀しいような
在るものは裏切れない
破って捨てても忘れらんない
こんな、私は私の「ある一日」という小説に沿って無くしたはずの鍵をかけて今夜も眠る。
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