一寸という距離を。/久野本 暁
 
一寸という距離を、一寸という距離に任せれば。
一寸という定められた袋小路を徘徊するだろう。
いびつに整えた瞳たちは等しく観止められるだろう。

一寸という距離を、頭陀袋に放り込んでゆけば。
一寸という計り得ない曖昧さを改感するだろう。
いびつにならしたグラウンドを闇としてくらますだろう。

一寸という距離を進むための一寸を、
ただ使い込む。一寸という距離を進むために。
一寸という時間を過ごすための一寸を、
ただ使い切る。一寸という時間を過ごすために。

一寸、訪れたあとに振り行けば。
あなたたちをいつでも導いてくれることに気付けるはずだ。
一寸はいつも笑わないピエロであろうとし、
あなたたちをいつでも先んじていることに気付かせるはずだ。


一寸という距離を。
一寸という時間に。
過ごした服の色はあでやかな黒だった。
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