足りないひと/恋月 ぴの
おかず一品足りないと
不機嫌そうな顔をするあなた
でもね、わたしだって何かと忙しいし
お給料日だってずっと先
あなたに足らないのはおかずじゃなくて
もうちょっとの頑張りなのかな
好きなひとには大きく羽ばたいて欲しいもの
誰一人立ち止まろうとしない
冷たい雨降る駅前広場の片隅でギターをかき鳴らし
あなたは歌っていた
微妙に音程外しながら
ありったけの思いの込めて
そんな姿に心惹かれてしまった
コードを押さえるのが精一杯の横顔に
わたしが失ったものを見つけたような気がして
いつの日にか巣立ちするのかな
この狭い部屋から
このわたしの腕のなかから
たとえば、あなたがテレビに出るようになって
芸能レポーターとか取材に来たりしても
喋ったりはしないからね
糟糠の妻って訳じゃないけど
おかず一品足らないと不機嫌になったとか
そんなことのすべて
しかめっ面を気取ってばかりいないで
たまには笑顔で歌ってよ
明日のおかず
もう一品ぐらい増やしてあげるから
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