うねる、時のゆくえ/佐野権太
 
物語は
いつからはじまったのだろう
あれは遥かふたばの記憶

いろおにの
むらさきが見つからなくて
忍びよる気配に耐え切れず
かさぶたに触れた、指先

―――ふるえていたのだ
―――私は

原罪は
アロエの刺のように
曖昧な痛みで
切口から緩慢にふくらむ
ひとしずく

泣くことは
ずっと禁じてきたから
いまさら、泣きじゃくるなんて
できない

鉄柵の向こう
広がる草原から
懐かしい海の匂いがせりあがる

うねる、私を
かつて泳ぎだした浜が
遠く見つめる

へいよー
へいよー

低く掠めてゆく
白い鳥





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