二十年後/三州生桑
置いてあり、そこからにぎやかな音楽が流れてくるのだった。この近未来的な光景の中にあって、それは却ってわびしげに響いてゐた。
女が一人、スロットマシンで遊んでゐる。私は一目見ただけで、彼女が別れた恋人であることを認めた。彼女は火のついてゐない煙草を気だるさうに啣へ、どんよりと濁った瞳でスロットマシンを眺めてゐた。グレーのスウェットスーツにエナメルのサンダル。だらしなくたるんだ頬、唐モロコシのヒゲのやうなごわごわとした髪。化粧ッ気は全くなかった。
・・・二十年間! 私は二十年前に彼女にふられ、この街を飛び出し・・・否、逃げ出したのだった。
近付く私を、彼女はけげんさうに一瞥する。煙草がぽとり
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