崖沿いの道/右肩良久
 
持ちになるのです。
「頑張りましょう!」
と前を歩く木島さんが少し掠れた声を張り上げるのですが、こういうときには逆効果です。手の使い方だとか、足のもって行き方だとか、もっと冷静で具体的なアドバイスが欲しいところです。そう思っていると、「あっ」という短い悲鳴が聞こえ、がらがらと岩の崩れる音とばきばき木の枝の折れる音が続きました。どぶん、という水音も激しい波音の間に聞こえたような気がします。
「今村さん、今村さんが落ちたっ」
と木島さんがわめきました。僕は怖くて自分の後ろを歩いていたはずの今村さんを振り返って見ることができません。もう何の掛け声でも構わない、安心感が欲しくてすがるように木島さんを見ると、大きな顔に汗の粒をいっぱい張り付かせ、僕の後ろへと目を大きく見開かせています。その目と目線を合わせようとして、「木島さん」と声を出し始めた瞬間、下へ引っ張られるように木島さんの体が姿を消してしまいました。
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