崖沿いの道/右肩良久
足下から小石が落ちていきました。岩を跳ねながら雑草や松の枝に当たって、途中まではそれとわかったのですが、直ぐに見失われ、激しく打ち寄せる紺碧の波に呑まれて延々と続く怒濤の音に紛れてしまいます。この道を伝って、武田の軍が今川の支城の一つを攻めたことがあったそうですが、その時にも十人近い鎧武者が転落して死んだと言うことです。両手を広げ崖にしがみつくようにして、なるべく下を見ないで済まそうと思うと、つい脆いところへ足を下ろして路側を崩します。僕はもうこの先の、平坦な当たり前の地面に立てることはないのかも知れない。そう思うと余計膝に力が入らなくなって、仰向けにのけぞりながら転落でもしてしまいそうな気持ち
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