僕の大切なものよ/右肩良久
君は震えて傾いでいます
それが誕生という時間の持つスタイルだから
僕も君と同様に傾いでいるけれども
それはもうどうでもいいこと
昨日見た父の遺骨の埋葬されている墓地の
白木の卒塔婆も傾いでおり
三羽の雀がおりました
君の傾いた本質を肉体という形で
僕は
受け取ります。裸の君を
初めての冬を越えた若木の芽のような
剥き出しのペニスを目立たせて
泣きもせずにゆったりと呼吸する
生まれて間もない君を
抱くんだ
この朧の夜に
僕はどこか遠い砂漠の幻から
無理矢理に君を引き出した
はるか以前の夜だか昼だかの
吐き気がするほどありふれた生殖行為によって
ごめんなさいありがとうごめんなさいありがとう
傾いでいるからすべてが滑り落ちる
逃れ得ない存在という様式に従って
僕も
僕の大好きな君も
戻る 編 削 Point(1)