断わりきれないひと/恋月 ぴの
 
「ねえ、良いだろ?」

何が良いんだかと思いつつ
とりあえず
あなたの左腕にしがみついてみる

押し付けた胸のふくらみに気づいたらしく
慌てふためく様子が可笑しくて

かまととだとか
ぶりっこだとか
なんだか遠い昔の懐かしいことば

わたし断わりきれない女だから

あなたが求めているもの
知ってはいるけど
素知らぬ顔で歩調を合わせ夜の繁華街を彷徨う

そっちには無いと思うよ

あまりの険しさに足の竦むところとか
身近すぎて見逃しがちなところに
それはこっそりと潜んでいる

誰かの手垢にまみれた先に転がっているのは
あなたの求めているものじゃなくて

「ちょっと休んでいこうか」

自信なさげは頼りないけど
わたし断わりきれない女だから
モラトリアムなあなたの背中を押してみた



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