ノート(空と午後)/木立 悟
 



呼んでも来ない
呼んでは消える
声は鍵になり
あけるもの無く
何もせぬまま
そこに浮かぶ


塗り込められた
壁の扉
ふたたび現われ
何処へつながる
鳴るのはひとつ
午後の足跡


よろこびのため
居たはずなのに
居ながらにして
遠去かり
居ながらにして
居なくなる


直ぐの道の上
近さも遠さも点になり
熱くなりただ熱くなり
扉と扉の前のものを燃す
燃えあがる燃えあがる
草も原も 燃えあがる


煙の渦が笑みになり
上や下へ消えてゆく
手からうなじへ 音を連れ
何もかもが去ってゆく午後
炎のなかを
近づき来る鍵


手のひら手のひら
底の無い舟
抄っても抄っても
水に還る水
よろこびの無いよろこびの空
増えることのない足跡の空









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