ストレイ・シイプ/草野春心
 


  絵を描いているのです
  どうかそのままで



  カンバスにほとばしる赤き血潮
  香る首すじはヘリオトロープ
  比喩はありません



  詩を書いているのです
  橋を渡ってどうぞ彼方へ



  広重とマリアが熔けあう午後
  歴史の遠さは今 港の霧笛と響く
  無数の白がノオトを埋める



  あなたが居るのです
  昔の夢 今の幻 明日への焦がれのなかに



  侍がごとく凛と立つ
  その立ち姿は――けれども森に迷い
  ただの女だった



(着想:夏目漱石「三四郎」より)
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