穴のなか/足立和夫
 
どのくらい掘ったか
見当がつかない
半分くらいなものか
背後をみやる
暗く光る土のにおいが
鼻をうつ
ここでは時間がわからない
時間は崩れている
なぜか穴は崩れたことがない
光の記憶がうすく
ぼんやりしている
穴を掘る速度も
見当がつかない
いつからか
樹脂のパイプが見つかり
その方向へ進んでいる
退路ははじめからない
掘りつづけるしかないのだ
止められない
まえから不思議なのは
なぜ穴を掘っているのか
わからないことだ
なぜぼくがここにいる
そうだ声を出したことがない
誰もいないのだ
穴の先にはなにもない
ぼくが知っているのは
穴のなかで死ぬってことだ
なぜわかる
光のそとで

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