セーター/草野春心
 


  やさしさに躓いて
  長い冬はセーターを編む
  遠ざかる音楽に耳を澄ませば
  寒さのなかにあのひとの温もり



  息苦しさは募りゆく
  はっと目覚めるコーヒーの朝
  ひとのせいにすることばかり考えて
  時計の音に身構えた日々



  世界は知っていたのでしょう
  繋いだ手と手が離れてゆくこと
  ずっと前から知っていて……
  語らず背中を押したのでしょう



  自分のための時間があること
  忘れたふりをしていただけ
  長い冬はセーターを編む
  私はそっと袖を通した


戻る   Point(1)