記憶喪失者/佐藤犀星
 
白昼夢の内容は忘れてしまったが
胸の奥では無数の目が涙を流していたために
激情と共に大粒の雨が降りしきり
それは再び激しい洪水となり
記憶を奪おうとしていた

僕は人間
今、生きている
氾濫した激しい流れに飲み込まれて
記憶喪失者になってしまわないように
必死に激流を耐えている人間
記憶を留めて未だ生きようとする
わずかな生命の灯火

なぜ今、目を開けたのかすら分からない
意識がない
必然性も無い
ただ、太陽の輪郭が
瞼の裏に焼きついていた
太陽に支配されているのかもしれない

それから一日が終わると
木馬たちは知らない間に
元の回転する無人の木馬に戻っていくのだ
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