記憶喪失者/佐藤犀星
無人のメリーゴーラウンドが回る、回る
そして無人の回転する木馬たちの鞍上から
無数の笑い声が、余韻を残しながら
ぐるぐると揺らめいている
めくるめく酔いと共に
木馬たちが夜の大空へ一斉に駆け上がる
その時、夜空には星の代わりに無数の目が瞬き
地上に生息する全ての生命を遠目で嘲り笑いながら
一つ、また一つと瞼を閉じて安い眠りに落ちていった
一頭の木馬が現れ、夜空の上まで昇っていった
眠りに落ちた一つの瞼を無理やり開けると
涙が流れて川ができた
川を渡ってはいけない と
何者かの叫ぶ声を聴いて
記憶は緩やかによみがえる
ここは僕の部屋
そして僕は人間
白昼
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