朝の、底/望月 ゆき
 
た夢の、それは続きかもしれない
夜の継ぎ目で囲われた、その映像は
ただしい角度で見えているのに 
音を、持たない




二人で観た、映画のタイトルは忘れてしまったけれど、
帰り道であのひとがたくさん教えてくれた、
星の名前だけ、ぜんぶおぼえてる





何度も、触れていたはずなのに 
あのひとを形成するいくつもの部位の、
温度さえ、おぼえていない
テーブルの上でこぼれて、気化していく炭酸水と
おなじ速度で 
夜が、ほどけていく
明け方の空に、おとめ座のスピカ
わたしの右手で、左手を結んで その
体温をたしかめる
ひらかれていく皮膚を擦ると、そこから
朝の、声がうまれて ふたたび
ちいさく、底をふるわす






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