朝の、底/望月 ゆき
 
からだのすべてを耳にしてしまいたい、いっそ





糸電話から伝わった振動が、
あのひとの声だったと気づいたときには、もう
音もなく、底はふるえない
わたしを塞いでいく夜にも、たしかに
変わらないものはあって
混沌と流れる世界はいつも
青信号ですすんで、赤信号で止まる
右にも左にも曲がることはない
糸をたぐり 交差点を直進して、
底がふるえた、さいごの記憶を拾いあつめては 
皮膚に貼りつける
宵の空には、おうし座のすばる




わたしの奥深い場所にある
地図にない湖の、水面が揺れて
あのひとに似た背中が
釣り糸を垂れている
午睡に見た夢
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