蝉の砂時計/たりぽん(大理 奔)
えないものを忘れているのだろう。知らないものに怯えているのだろう。どんなものにも境界線を求め、掴めないものを掴めると信じる。境界線に沿って世界は存在し、境界線こそが世界となる。常識も権威も法律も宗教も。そして大地を掴む根のことを忘れてしまう。蝉のように飛ぶことのない私もきっといつか滅びて空に還っていく。体は地中に。体温は海に。そして何も掴めない手のひらは透明な蝉となって永遠の星空へ上昇していく。
そして誰もが砂時計を忘れてしまうのだ。
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