距離感/霜天
軒下で猫が鳴いた日
街は雨だった
雑音が混じる電話の
聞き取れない君の声
こんな日が原因かもしれない
街に
傘を持って
ついでに長靴も用意した
ばらばらに音が降ってくるので
軒下の猫の声は見えなくなった
雑音の混じる電話線をたどって
久々の長靴で足跡を作った
声が届いてこなかったのは
雨で距離感が狂ったからだ
きっと
雑踏で電話線は途切れた
ざわざわ
包まれる音と
聞き逃すということ
軒下の猫が鳴いた気がしたので
振り向いてみても
雑踏には何もない
家の電話は相変わらずの雑音で
君の声は届かない
にゃお
軒下で猫が鳴いた日
息をするくらいに自然に
君の声がすうっと届く
街がそんな距離感を取り戻す
いつになるだろう
街は白い
紫陽花がゆれる
軒下で猫が鳴いた日
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