「 いつか、どこかで春が。 」/PULL.
て、いる。あたし。
二。
前を塞ぐ、長い、ビルの影。そこはうずた
かく、雪が、降りつもる、この冬の間一度も、
陽の当たらなかった、場所。まだ誰も踏み締
めたことのない、危険な、場所。でも渡る、
渡らなければ、いけないあたしは、この影を
越えて向こう、に渡らなければ、いけない、
行けない、渡らなければ、あたしは。どこに
も行けなくなってしまうだから。
バックパックから懐中電灯を出し、足下の、
雪を照らす。歩く。暗い。影の、中に入る。
影の、中にあたし、いる。歩く、雪が啼く、
足下の、懐中電灯の明かりは、弱い、夕べ、
換えの電池は使い切った、先週
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