無題。/影山影司
僕の妻は食の細い、色白な女だった。
色白な女は肉を食わない。何故ってふぇてぃしすとだからな。甘ちゃんだからな。
「だって命を食べてまで、生きる資格が私にあるの?」
学生の時分、彼女は食堂でトンカツ定食を頼んではキャベツだけを食っていた。
そんな彼女の箸使いに惚れて僕は結婚を申し込んだ。
彼女の家庭は敬虔なくりすちんだった。命を尊ぶあまり、生きる道を見失った一族だった。彼女の兄弟は七人いて六人死んで生き残ったのは彼女独りぼっちだった。「近所のスーパーに夕飯の買い出しへ行った帰り……放課後の小学校の横を通るの。夕暮れの、子供達が走り回る運動場を傍目に……すると途端に生きている事
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