赤い花/石瀬琳々
 
かつて私の心はまだ白く何も描かれず
風のような手触りがした
誰も知らず 一枚の草の葉のように
静かにそよいで穏やかだった


ふとあやまって落としたインクのように
すべてがいつか変わってしまった
あなたを見た時から風景も匂いもすべて
一滴の雫がすべり落ちる
あなたを知るたびに鮮やかさを増して
描かれてゆくものがある
草の葉がつぼみをつけるようにやわらかく


それは花ひらいて私にほほえむ
痛みと甘さで刺し貫いて
けして消せないその色から目がはなせないのだ
ただあやまって落としたインクのように


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