カラビナ、切っていくんだろ/ピッピ
ないだろう
古びた喫茶店ではいつものように
馬鹿みたいな女が馬鹿みたいな話をしているだろう
何十年後、何万年後でさえも
声が聞こえる、ということが
ただ苦しいときもある
どうして目はすぐに閉じられるのに
耳はすぐに塞げないのだろう、と思う
耳を指で塞いだら
きちんと指先に流れる血流の音がするのである
なぜ生きていることから逃れるために
生きていることを実感する過程が必要なのだろう
烏は同じ場所で飢えているのだった
ただ真っ黒な場所で見えないだけなのだった
いつまでも夜だから
目だけがいつまでも死んでいるんだ
カラビナ、切っていくんだろ
道は驟雨でぐちゃぐちゃだ
信号が邪魔するんだろ
信号だって光源だ
自販機が邪魔するんだろ
自販機だって光源だ
カラビナ、切っていくんだろ
不正なものの正しさが
朝の色へと染めていく
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