刻印/clef
 
皮を剥きながら 
話しかけることの虚しさに気をとられて
滑ったナイフの 
切っ先のその先からながれでた 
一筋の金属のさまは
川を流れいく繊維の 
けっして移ろわない影のように
ただ 
光を押し戻すだけの 
反射鏡の 
結ばない焦点に似て
あてなく天井に漂っている

お誂え向きの交代要員になれなかった 
埋められないあなたの履歴や
深く息を吸ったまま閉じてしまった 
レントゲン装置や
受け渡すときに 
どちらの右手からも離されて 
重力の穴に落ちた紙コップや

たぶんどこかしら 
欠けていたり 
虫食いがあったりする 
角がとれた思い出の
誤解の半分は
やさしく見えるから 
まぶたを閉じることができない

冬のままでもいいかもしれない 
そんな駄々っ子のようないいわけにすら
果物ナイフの腹を押しあて
人違いの強要をしてしまう

指先から ナイフの切っ先から    

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