分厚い朝/あすくれかおす
いう
「ちゃんと生きていれば
ちゃんと生きていればな」
兄は
朝ご飯を食べないで
「ファイナルファンタジー」のレベルを上げながら
ときどきやってくる着信音に右手を伸ばしながら
「失業保険受給資格者のしおり」をお尻で踏んでいる
何かがおかしい何かが
ぜんぜん分厚くないじゃない
そう思った瞬間に
なんだか馬鹿馬鹿しくなって
私は枕元で沈黙していたレポートを紙飛行機にして
二階のベランダからえいやと飛ばした
お向かいの屋根瓦に突き刺さったけど
それも愛嬌
女も愛嬌
きっとレポートは学校で印刷しなおすのだろう
兄は曲がったしおりを持ってハローワークに出かけるのだろう
ぜんぜん分厚くないじゃない
ぜんぜん分厚くないけれど
それでも嬉しくなるでしょう
それでも楽しくなるでしょう
生きていれば
ちゃんと 生きていればな
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