うたひめ。/AKiHiCo
 
歌が歌えなくなった姫は
この喉元に誰もが眠る夜に
そっとナイフを当てた
もう私が私じゃなくなって
しまう、と
恐れて。歌えない私など
誰も見てはくれないと

独りきり部屋に閉じ篭り
暗闇の中に妄想で描いた世界
そこに赤色を垂らす
温もりが下へ下へ伝う

気付いてしまったら御仕舞い
この赤色が温かいのは
生きているから
生きているから温かいのか
温かいから生きていると言えるのか
白い膜の張った脳では
最早、何も判らない判らない
あの時、誇らしく歌った歌の名前さえ

心の中で眠る幸せの花
そっと誰かが摘んで行った
歌声は掠れて観客からは罵声の矢
大丈夫、私は皆が平伏す歌姫
すぐに喝采に変わる、はず

嗚呼、今頃気付くなんて
愚かな作り上げられた張りぼての

嗚呼、気付けば回りには誰もいない
手渡された一枚の切符
何処へ、
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