「こときり」/たもつ
降りしきる雨の中
傘もささずに俺たちは歩いた
死ぬほど歩き続けた
けれどそれで
俺たちが死ぬことはなかった
俺たち いい奴だった
俺たち 輝いていた
俺たちは生の肉だった
俺たちは皮膚そのものだった
俺たち 愛しあってた
俺たちはポケットに
鋭利なナイスを忍ばせて歩いた
時々鋭利なナイスをちらつかせて
俺たち 素敵だった
好きな食べ物は何ですか
そう聞かれて
カブト虫
と答えてしまったような気まずさが
生きていく俺たちにはあった
別にダンゴ虫でも良かった
俺たちはダンゴ虫が好きだった
俺たちには名前があった
降りしきる雨の中
歩く俺たちを追い
[次のページ]
戻る 編 削 Point(25)