福豆/かのこ
 
行できるのは実際まだまだ先だろう。
けれど、お母さんの髪や背中や指先が、ふとしたときにあんまりにも細くなってることに気付く。
その細さを年々思い知らされながらも、まだ頼っているような自分に、お母さん、内心焦ってしまう。

お母さんは、ご飯ありがとう、と言って、軽い煙草を一本、ベランダで吸ってから猫と一緒に眠った。
お母さん。「福はうち」とだけ言って「鬼はそと」と言わないのは、福さえあれば他に何もいらないからじゃないだろうか。金棒を持った鬼はいつだって人の心の中にいるからじゃないだろうか。
ベランダに散りばめられた福豆は、やがて春がやって来て、鳥たちがきれいに片付けてくれるだろう。
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