福豆/かのこ
お母さん、いつからだったっけ。
家の冷蔵庫からパックの牛乳は姿を消した。
森永の事件の所為じゃない。値段が高いからじゃない。
お母さんが働きに行くようになって、お兄ちゃんが東京に行って、あたしは学校を辞め、牛乳を飲む人は家からいなくなった。
牛乳だけじゃない。冷蔵庫の中は、常に卵と腐りにくいものと、お母さんの晩酌のための肴だけ。
炊いた飯もよく余るようになった。
お母さん、お母さんの胃袋はすっかり痩せた。胃袋だけじゃなくて、髪も、背中も指先も。
2月3日の節分の日。傘をさすほどでもない小雨が降っている、寒い朝だった。
あたしが起きた頃には、洗濯物も洗い物も片付いていて、お母さん
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