音がいて、音が/Utakata
だと思い込んでいた僕に
あのときの横顔がかすかに笑ったように見えたのは
他に作るべき表情が見当たらなかったからなんだろう
首筋に泳ぐ小さな金魚は伸ばした手からすり抜けて
年老いた時計が物語の終わりの近いことを告げる
微笑んでさよならを言わなければならなかった
伸ばしたはずの手に触れた小さな骨のかけら
孤独な水銀灯の灯りが肺を冷たく満たした
薄暗い部屋の中にうずくまる小さな動物
誰も知らない意味の言葉を吐き続ける
足元の砂粒たちが小さな声で啼いた
最後の嘘を完全に壊してしまうと
立ち去るように笑い顔が消えた
瞬きもしない瞳に流れ込んで
空中で凍りついた小雨の滴
無限に重なった波の軌道
唇が震える最後の瞬間
遠くで踊る小さな影
不可能な呼びかけ
声にならぬまま
言いよどんで
雨に消えた
物語の死
最後の
僕の
音
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