「通信」/菊尾
 
この先も思い出す
理由を忘れてもその壁の色はきっと思い出す
単純じゃないよ
そんな簡単にはいかないよ
足元に割れた幾つか
もう何個も割っている


上り下りする音階の海で
人差し指と親指で
ウエハースを摘まむみたいに
君は現実を弄ぶ
離して拾い上げて
今日、そこでは
何を聴いているのだろう
細い針の穴から覗いたような世界で
赤いビー玉を沈めた時のような
あの河原で積み上げた石が崩されるような
そんな音に身を浸しているの?

少し、分けてよ
僕にもその音を
途切れる前に
何も分からなくなる前に

戻る   Point(0)