ささくれたひと/恋月 ぴの
虫のいどころでも悪いのか
いつまでも押し黙ったままで
あなたはテレビの画面を眺めるでもなく
そっと箸を置く
テレビのなかには
つまらないギャグに笑い転げる顔があり
テレビのそとには
些細なことまで我慢を重ねる顔がある
あの頃は夜明けまで熱く語ってくれたよね
夢とか希望とも違うもの
それは行き場の無い怒りや苛立ちとか
思いの丈をぶつけてくれたことへの幸せがあった
いつからだろう、ふたり
お互いの顔を見合わせることさえ避けようと
それぞれが描いた丸い輪のなかから出ようともせず
ひとにはひとだけが感じる痛みがあるのだと
左手の薬指にできたささくれは疼き
幸せから滑り落ちた一枚の絵皿
床の上でふたつに割れた
戻る 編 削 Point(23)