批評祭参加作品■回り道、つぶやく。 ??五十嵐倫子『空に咲く』について/岡部淳太郎
 
たくて
勤め帰り 夜も深く沈んだのに
エマが亡くなって四十九日目だったから
こっそり会いに行ったんだ

(「悲しい人いませんか?」部分)}

 珍しく誰かに語りかけるような口調で始まる。「エマ」と名づけられた亡き母に語り手は会いに行く。「石の路を踏み外したら/よろけて土の上/しっとりとやわらかい感触にビクリとした」という詩行は、語り手の心の危うさを表しているようにも見える。この詩でも相変らず語り手の心は様々な方向に動く。だが、それがこれまで引用してきた詩と決定的に異なるのは、その心の動きが「エマ」の死によってその死に沿うような形で動いているところだ。引用部分の後、「友達からメールが届
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