蛇の目のミシン、町子の母/N哉
蛇の目のミシン、母の足
ペダルを踏む音
みしん!と踏む足
みしん!みしん!みしん!
母の足
ご覧なさい!
居間から家から
転がり落ちる歯車という歯車!
みしん!みしん!みしん!
町子の悲鳴、居間のそれ
「お母さん、お母さん
待ち合わせに遅れますから」
太くて長いミシン針!
何度も貫く、町子のあれ
みしん!みしん!みしん!
「もう少しだから、もう少しだから」
歯車は次々と
居間から家から転がり出して行くのに!
町子自身は出られない!
最早その表情には、諦めの色
突き下ろされるミシン針!
一縫いごとに鳴り響く!
町子の!悲鳴!
みしん!
「さあできた
好きなだけ遊んでくるが良い」
母の満足、何を縫う
抜けた腰を引きずって町子
慌てて飛び出す寒空の下
街灯の下にてヤサ男の溜息
駆けつけた町子を見て
縫いつけられたそれを見て
何もかも諦めざるを得ない
(蛇の目のミシン、何を縫う)
壊れたミシン
真っ赤な血
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