てるてるぼうず/佐藤犀星
 
母親が貴方に傘を差してくれました
傘はスカートのように広がり
貴方はその中にスッポリと収まる
小さな小さな女の子でした

赤い傘
くるくると回してくれませんか
雨がぴたんぴたんと弾けるたびに
貴方はぴょんぴょんと跳ねました
スカートがひらひらと
風になびきました

いずれ貴方は大きくなり
今日の雨を忘れてしまう日が
来ることでしょう
貴方はもう踊らないし
笑うこともありません
赤いスカートの中の
母親の優しい体温を
忘れてしまうのです

家の明かりが灯る頃
冷たく小さな手のひらで
貴方は私を折りました
私は白いスカートを
風になびかせながら
明日の太陽を願います

雨の線が交錯して
貴方が何かを失くした頃
大きく暖かな手のひらで
私をもう一度折ってください
忘れたものを取り戻せなくとも
私は明日の太陽を願います
戻る   Point(1)