批評祭参加作品■〈日常〉へたどりつくための彷徨 ??坂井信夫『〈日常〉へ』について/岡部淳太郎
 
れて
いるのか。それとも犀であったころを懐しみ
ながら暗い部屋で眠っているのか。あのころ
犀をみかけることは稀だった。だが、いまは
どうだ。わずか二十年が経っただけなのに、
路上を往きかうのは犀ばかりだ。かたい角(つの)を
ふりかざしながら挨拶を交わしているではな
いか。かれらは、いつ自分が犀になったかも
気づかないままスーパーTOPにつめかけ、
デニーズを満席にしている。だれもが犀でい
ることを疑いさえしない。それはたんに慣れ
てしまったからなのか。かつて犀となった者
は白い眼でみられていたが、いまではだれも
異様とは思わない。むしろ人間のほうが歩道
のはしっこ
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